石井:結局絵が好きで、普通に趣味で絵を描いたりしますけど、仕事でやってるときの絵とそっちの絵は全然違うじゃないですか。でもたまに仕事で自分好みのものが来たりするじゃないですか。なんかそういうときは不思議な感じって言うか。だから、好きなやつをやってるときはストレスはある方向にはかかってくるけど、ある方向には全然かかんなかったりとか仕事によって違うっていうか。だからそれこそ、変な話あんまり興味のないものやっちゃってるときとかって、なんかちょっとしんどいなぁっというとこが大きくなっちゃったりとかするんですけど。
吉田:でもアニメーターになる素養のひとつにジェラシー力(りょく)ってあるよね。ジェラシー力すごい必要だと思うんだけど。
神志那:それは絶対必要。ジェラシーをしない人は伸びないと思うよ。
吉田:こんな上手いやつゆるせねぇ、なんでこんな(自分には)描けない絵描くの?っていうの高校のころからそういうの見ると絶対(自分の)絵上手くなるし。
渚:なるのかなぁー、私なってる気しないんだけどな。
佐野:おれもしない。
石井:え、じゃあ、それじゃ渚さんのだったら最初のころの絵とかどっかにあるから、そういうの・・・
渚:やめてやめて!石井さん何気にちょっとさ、意地が悪いですよ(笑)優しく意地悪するんですよ(笑)
石井:みんなそんなようなもんですよ。やっぱり入りたてのころの絵とか見たくないですよ。もう。
佐野:地獄だと思いますよ。
吉田:あの、神志那さんってクラスの中で一番絵上手かったですか?
神志那:高校のクラスってこと?いやいや上手いやついた。めっちゃ上手いやついたよ。
吉田:僕も圧倒的に上手い人いたんですけどね。
神志那:そういうのってしょうがない世界じゃない、小学校・中学校・高校と・・・。
吉田:でも、一番上手い人って結構絵の仕事についてない、みたいなパターンを見てるんですよね。
神志那:うん、だいたいそう。
渚:不思議ですよね~。
佐野:でも、おれ、専門の時は上手い人一杯いたんですけど、小中高のときは自分が一番上手いと思ってて、だから業界入ってから上手くて当たり前って言うか周りの人が上手すぎるんで、結構業界入ってから挫折のほうが大きかったですよ。
吉田:ああ、そうなんだ。じゃあクラスに上手い人がいないっていうのはけっこうつらいんだね。
石井:でも、それこそそれが逆にいいほうに嫉妬でいいんじゃないですか。やっぱり自分が一番ではなかったので、というかそういう系にいくと上手い人めっちゃいるじゃないですか。
吉田:うん、だから自分が一番じゃないと、じゃあどこが勝ってるかなって考えるでしょ。そん時に、イメージだったら負けないところがあるな、とか戦い方を考えるっていうか。
渚:でも私、絵描く時ってあんましそういうのやなんですけどね。
神志那:ああ、勝ち負け的な。
渚:なんかもう、学科とか勉強とかそういうので散々、で唯一そういうのがないので絵をやってきて、芸大入ったら今度は絵で競い合わなきゃいけなくなって。すごい散々やな思いをしたんで。芸大に院があったもので4年生のときにすごいクラスが荒れちゃって。あんなに能天気なクラスだったのに。
石井:なんだろ、今多分吉田さんがイメージ的にいってたことと、渚さんのリアルな学校の順位付けとはちょっと違う気がして。どちらかというと吉田さんのほうはジェラシーというか、自分より上手い人がいて、悔しいと思うじゃないですか。それに対して自分はどこだったらこの人に頑張ったら勝てるだろうかっていうとこのあれだけど、でも学校のほうの順位付けになってくるとそういうのとはまた別のところの、先生からの評価みたいなものも入ってくると思うんで。先生によってある程度数値化して見られちゃってるところもあると思うし、だからといって数値化以外のところでいいところがあったりしても・・・。
佐野:他人の評価と自分の評価が一致してなかったりとかもありますもんね。自分はこれがやりたいとか思ってても、例えば周りの評価は違って、君はこういうの描く方が上手いね~とか言われて、そっちが結果的に飯の種に、みたいなこともあると思うんですよね。
吉田:でも、ジェラシーとかほかの人がどうっとかってのは、10代の話。自分の感覚としてね。それがどこまでかっていうと高校まで。で、俺は専門ではなくて美大にいったので、そこから変わってきたのがやっぱり一家言ある人が集まってくるから、叩き合いでは決着がつかないっていうのがあって。今度は価値観が相対化していくって言う。なんか勝ち負けとかじゃなくてこの人はこの位置、このひとはこの位置みたいな分かれ方をしていく。
佐野:それは自分で見つけていくものなんですか、それとも周りから君はこうだねって言われてそれで見つけていくもんなんですか?
吉田:えっとね、ある程度ね、何回か人と殴り合ってね・・・
渚:えー!殴り合ったの!?
吉田:いや、議論で。殴り合ってすげえこれは血が出る、ってみんな思い始めてじゃあどこに立とうかって、それぞれが落ち着いてくるっていう。
渚:私と吉田さんは油絵科とデザイン科だからまたそれはそれでちょっと違いますよね。
吉田:そうね。デザインは商業だから、もうちょっと、クール?
渚:ですよね。
石井:でも、それこそアニメの職業の場合デザイン系と美術系の両方を上手い具合持っていたほうがいいですよね。多分。
吉田:うん。ただ、アニメをやるエネルギー源になってたのは、美大に入って勉強して、結局アニメをやりたいってのがあったから、アニメをやるつもりでいたんだけど、大学一年のころに「私は貧乏なアニメーター」っていう名著を読んで、これは仕事にならん、こんな稼げないんじゃ一生の仕事にできないと思って漫画を描き始めるという。で、3年まで一生懸命描いたけど、なんか就職活動を始める前に結局やりたいことなんだろうな、と思い直してやっぱアニメをやりたいと思ってアニメに戻る、ていう。
石井:あ、じゃあ自分とは真逆っていうか、自分の場合は逆に貧乏でも生きてはいけるんだ、という感じの考えを。
吉田:ああ、でも、だけど、貧乏だけど、周りの人はちゃんとしたところに就職するのに俺はここに飛び込んでいくんだっていう覚悟っていうか悲壮感があると、それはそれで生きていける。あ、やべえ、やらないと死ぬかもしれないって強く思うと割と続けられるっていう。
佐野:あ、じゃああれだ。これからアニメーターを目指したい人にとって一番気になることが金のことだと思うんですよ。果たして食っていけるのかどうかっていう部分が。結構一般的にはものすごいワープア(ワーキングプア)的な扱い、ていうかそういう目で見られてる部分もあるじゃないですか。実際のところみんな食えてるとかっていうところと、あとそういう情報をみてもこの業界に入ってきたと思うんですけど、それを飛び込むにあたって、それでもやっていきたいとかそれともやっていける算段があったのかのか見たいな話ってどうですか。
吉田:だから俺は、やらないと死ぬっていうところに飛び込んでみようと。で、結果は後から考えようと。だから、そんなに結果を求めて飛び込んでないし、最初の2年くらいはやっぱ恐怖感がいっぱいあって。で、田舎が山口だから正月とかに帰るでしょ。お金がないから(青春)18切符とかで帰るのね。行きは電車の関係で満員電車で帰って、で、山口からこっちに戻ってくるときにやっぱり夜行の特急みたいな普通車両に乗って帰るんだけど、席が完璧にうまってて山口だから博多発の列車に乗ると、もうないの、席が。で、車両の一番後ろのところの通路が空いてるからそこに座って帰ってくる。
渚:なんか・・・、時代が・・・(笑)
吉田:で、帰ってくるんだけど、パッて立つとその一番車両の後ろの窓から真っ暗い夜に線路がどんどん去っていって田舎がだんだん遠ざかるっていう(笑)これはまずい、やんなきゃ死ぬって。
石井:あの、東京以外の人がこっち出てきてやるっていうのと、東京の人たちがやるってのもアニメ業界の場合は結構もろに違うような気がするんですけどね。神志那さんって何歳ぐらいの段階でこっちでてきたんですか?
神志那:じゅう・・・高校出てすぐ入ったから19になる春に(スタジオ・ライブに)入ってる。
渚:何周年ですか?アニメーター歴。
神志那:32年。この春に33年目にはいってるね。それこそ覚悟が違うと思う。俺はもうこれしかないって、ほかの道は一切考えてなかったから。覚悟で出てきてるからね。それこそほかの人がどうのじゃないんだよ。自分がこれで食ってけるかどうかだから。当然入ってもたくさん上手い人一杯いるんだけれど、そりゃ当たり前って思ってたのね。そういう人が集まってきてるわけだからさ。アニメーターって。上手くて当たり前だから、そんなかで自分がどうやって生きていけるかってことが、それしか考えてなかったから。もう、数をこなして。人より数をこなすことしかまず頭になかった。
渚:えー!すごいですねー。ほんとにこれでいいのかな、私。
吉田:反省したまえ(笑)
【続く・・・】